今回はシーン17「レイチェル」です。
本シーンはタイレル社を訪れたデッカードがレイチェルと出会うシーンです。
タイレル博士の提案によりデッカードはレイチェルにフォークト・カンプフ・テストを行います。
テストの結果、レイチェルがレプリカントだと知ったデッカードに対し、タイレル博士は本作品のキーワードとなる「記憶」についての見解を述べて本シーンは終了します。
ワークプリントだけに存在するデッカードのセリフ
さて、本シーンには「ワークプリント」だけで聞くことの出来るデッカードのセリフがあります。
レイチェルがデッカードに”May I ask you a personal question?(個人的な質問をしていい?)”と訪ねた後、デッカードはレイチェルに”Sure.(もちろん)”と答えます。
この後、「ワークプリント」ではデッカードの”What is it?(それで?)”というセリフを聞くことが出来ます。
このデッカードのセリフは、その後の全てのバージョンでは削除されています。
デッカードが出題したVKテストのシリーズ名
また、本シーンの未使用シーンの中にはデッカードのボイスオーバーが含まれています。
このボイスオーバーの中で、デッカードは自身がレイチェルに行ったフォークト・カンプフ・テストのシリーズ名について言及しています。
“It was always a thrill running a Voight-Kampff on a known human being. All you get is zero-zero-zero.
Just to humor the big shot, I ran 62 questions in the Omega series, 28 in the Colman series.
And I was coming to the end of the coming-cross-reference when I got a cold chill down my spine.”
「知ってる人間にフォークト・カンプフ・テストを受けさせるのはいつもスリルがある。答えはいつもゼロ-ゼロ-ゼロだ。
タイレルのご機嫌取りに、俺はオメガシリーズから62問、コールマンシリーズから28問を出題した。
そしてリファレンスを終えようとした時、俺の背筋は凍りついた。」
デッカードは「オメガシリーズから62問、コールマンシリーズから28問を出題」と言っています。
このセリフから、VKテストの一連の質問にはいくつかのシリーズがあり、検査官はテストを受ける相手や状況によって使い分けていることが伺えます。
状況に応じてどのシリーズを使うのかが、ブレードランナーの腕の見せ所の一つなのかもしれません。
デッカードは元々やる気がなかった?
このデッカードのボイスオーバーで面白いのは「タイレルのご機嫌取りに」と言っていること。
つまり、レイチェルを人間だと思いこんでいるデッカードは結果のわかっているテストにやる気がなく、タイレルのご機嫌を取るために仕方なく90問も質問をしたとうわけです。
しかし、テストをやってみた結果、レイチェルがレプリカントだということに気づき背筋の凍る思いをしたという面白い結末となっています。
LAPDのブライアントには反抗的な態度を取ったデッカードですが、タイレル博士ほどの巨大権力を持つ人間には迎合してしまうデッカードの一面が描かれているのも興味深いところです。
未使用シーンてんこ盛り
本シーンには前述のワークプリントのセリフやボイスオーバー以外にも多くの未使用シーンがあります。その数は実に24カットにも及びます。
「ブレードランナー・ホワイトドラゴンカット5」ではその殆どを本編に組み込みました。
ホワイトドラゴンカット5に組み込まなかった未使用シーンの一つに犬のカットがあります。
タイレルはフクロウの他に犬も飼っている。まあ、超富裕層のタイレルならあり得ることなのですが、敢えてこの犬のカットは組み込みませんでした。
組み込まなかったのには大きな理由があります。これについては別の機会に書いてみようと思っています。
デッカード、レイチェルとタイレル博士のシルエットの奥でタイレルピラミッドのブラインドが降りていくシーンはヴァンゲリスの音楽と相まって幻想的なシーンとなっていますが、ホワイトドラゴンカットでは本シーンにVKテストを準備するデッカードや物憂げな表情でテストを待つレイチェルの未使用カットをディゾルブで挿入しています。より幻想的な雰囲気が増したのではないでしょうか。
また、前述のデッカードのボイスオーバーはVKテストシーンの後半に挿入しています。
これら以外にも、VKテストが終わった後に不安げな表情で結果を待つレイチェルや、彼女がレプリカントであることを察したデッカードが意味深な表情でタイレル博士を見るカット等、興味深いカットにも注目してください。
本シーンはあまりにも追加シーンが多くなったためサウンドトラックも殆どが作り直しとなりました。
本シーンはリドリーヴィル・シーンの様なCGによる派手な追加カットこそないものの、ホワイトドラゴンカットの中では屈指の再編集シーンとなっています。個人的にはお気に入りの一つです。
楽しんでもらえれば幸いです。
<シーン17:レイチェル>