今回はシーン9「レプリカント・イン・クエスチョン」です。
本シーンは、ブルー・ルームと呼ばれる青い部屋でデッカードとブライアントが逃亡したレプリカントの製造データを閲覧するシーンです。別名「ブルー・ルーム」シーンとも呼ばれています。

彼らがレプリカントの個体情報を閲覧するのが「ESPER」というスーパーコンピューターです。この「ESPER」については、ポール・M・サイモンの「メイキング・オブ・ブレードランナー」に以下の様に書かれています。
- 警察が管理するスーパーコンピューター
- 21世紀の街の至る所や車に設置されている
現代のテクノロジーに置き換えてみると、「ESPER」とは警察本部に置かれたスーパーコンピューターと、それにネットワークで繋がれた端末のシステム全体の名称なのかもしれません。
さて、この「ESPER」については、シド・ミードがプロダクション・スケッチの中でLAPD内に設置されている端末を描いています。

ブルー・ルームに設置されているESPER端末は恐らくこのスケッチを元にしたものだと思われます。しかしオリジナル版「ブレードランナー」の「ブルー・ルーム」シーンではモニターのアップが映るだけで端末の全体像は全く映りません。

では、シド・ミードの描いたESPER端末はセットとして全く作られなかったのかというとそうではありません。
ブレードランナーのボツシーンの中に、ガフとブライアントがESPERを使ってデッカードを盗撮しているシーンがあります。このボツシーンの中にESPER端末の全体像が映っているのです!

ほぼ完璧にシド・ミードの描いたESPER端末が再現されています。
「ブレードランナー・ホワイトドラゴンカット5」 では、このボツカットを修正して「ブルー・ルーム」シーンにESPER端末の全体像を組み込みます。具体的には、
- モニターの画像をレオンがフォークトカンプフ検査を受けている画像に入れ替える
- ガフをシルエットのみにしてデッカードに見せかける
- ガフが飲んでいるコーヒーを消す
- タバコの煙を追加
ざっと、こんなところです。
さて、ここで一つ問題があります。モニター両横のネオンの色が「ブルー・ルーム」シーンのものとボツカットのものとで違うことです。
「ブルー・ルーム」シーンのものは青色でボツカットのものはオレンジ色になっています。
<モニター両横のネオンの色:「ブルー・ルーム」シーンのものは青色でボツカットのものはオレンジ色>
はたしてどちらが正しいのでしょうか?
ここでシド・ミードのオリジナルスケッチを見てみると、ネオンの位置こそ違いますが色はオレンジ色なのが分かります。
シド・ミードのオリジナルスケッチの完全再現がWDC5のコンセプトの一つなので、ミードのスケッチに合わせてオレンジ色で統一することにします。



また、本シーンの前半にはデッカードのボツ・ナレーションを追加しています。
デッカードのナレーション(モノローグ)については賛否両論ありますが私は賛成派です。ブレードランナーは、フィルム・ノワールとの関係が指摘されることがありますが、モノローグはフィルム・ノワールでよく使われた手法の一つです。デッカードのモノローグはブレードランナーにフィルム・ノワール感を出すのに一役買っていると思っています。
<シーン9 : レプリカント・イン・クエスチョン>